ゲッターロボ-The beginning- 010(第2章)
2008-05-26


***
 夕焼けが街を包み、はしゃぎながら家路へと向かう子供達の影を長く伸ばしている。
 民家と民家の間にはまだ草むらが生い茂る原っぱの多いこの時代、子供達にとっては帰り道だって遊び場なのだ。
 友達とのかくれんぼに気を取られていたのか、隠れている友達を探すのに夢中な鬼役の子供が、立ち止まっていた人影にぶつかって尻餅を着いた。
「いてて……ごめんなさい」
 子供は立ち上がり、ペコリと会釈をすると再び友達と駆け出して行った。
 その時、子供は気付かなかったのだ。 
 その、時期の早いトレンチコートを着込んだ男の顔を見上げずに頭を下げていたから。
 目深に被ったソフトハットに隠れたその緑色の顔を、見る事が無かったから。

 早乙女たち三人は、大学院の近くにある仕出し屋で山程買い込んだおにぎりや惣菜の包みを抱え、竜崎の下宿へと向かっていた。
「リッキー。歩きながら食べるの、はしたないわよ」
 中身がぎっしりと詰まった茶色い紙袋を両手で抱え込んで歩くリッキーに、和子は呆れ気味である。
「だってあそこのおにぎり、すっごく美味しいんだよ。
 この塩加減が絶妙〓♪」
 リッキーは竜崎の下宿に着くまで我慢が出来ないのか、胸に抱え込んだ紙袋を落とさぬように器用におにぎりを食べながら歩いている。
「んもう、リッキーったら。
 でも、それ本当に一人で食べるつもりなの?」
 ぶっちゃけ、リッキーが抱え込んでいる大きな紙袋の中身は全てリッキーのみが食べる分である。
 和子と早乙女と美奈子用に買った分は、早乙女の抱える袋の中。
 つまりは三人前を越える量をリッキーは一人で食べるつもりなのだ。
 毎度の事とは言え、和子はリッキーのその食欲に驚嘆するばかりである。
「うん。今日ちょっと運動しちゃったからね。
 お腹減っちゃって減っちゃって」
「あら? 今日ってずっと私と一緒だったじゃない。
 私が美奈子さんを送ってた間に、何かしたの?」
 〓〓やばいっ!
 二人のやりとりを聞いていた早乙女の顔が青くなった。
 和子にはチンピラヤクザに頼まれて竜崎を探しに行った事を、まだ話していないのだ。
 竜崎の事はまだしも、チンピラに関わった事を知られたらどんな雷が落ちるか解らない。
「な、なぁリッキー。お前ソレ、持って来ちまったのか?」
 早乙女は慌てて会話を逸らそうと紙袋で塞がっている両手の代わりに顎を動かし、リッキーの腰にぶら下がっている二本の鉄製のトンファーを指した。
 トンファーとは琉球武術等で用いられる武具の一種で、約45センチメートル程の長さの棒の片端近くに握りとなる短い柄が垂直に付けられた形状の物である。
 棒が腕に沿うように柄を握ると防御に適し、握ったまま柄を中心に180度回転させ、棒が相手の方に向くように握り直すとリーチが棒の分だけ伸びるため、攻撃に適す事になる。
 また、棒と握りは完全なL字型では無く、棒が腕に沿うように握った場合でも拳の位置より先に棒が少し突き出すため、その状態でもトンファーの打撃を加える事が出来る。
 そのため、むしろ裏拳や肘系の格闘術の延長として用いられる事も多く、持ち方を変えるだけで一瞬に変わるその二種類のリーチは実戦での間合いの駆け引きにおいて極めて有益であり、使いこなせればとても便利な武具と言える。
 本来のトンファーは木製なのだが、リッキーの腰にぶら下がっているそれは敷島教授の特製であり、鉄製でそのサイズも太さも通常のトンファーより二回りは大きい物となっていた。
「うん。だってコレ、面白そうなんだもん」
 リッキーは食べていたおにぎりの残りをポイと口の中に放り込むと、とぼけた顔をして指を親指から順に舐めている。
 や、別にとぼけているわけでは無い。それがリッキーの素なのだ。
「よく敷島教授が貸してくれたな?」
「えへへ。黙って持って来ちゃった」
 リッキーはペロリと舌を出した。

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[ゲッターロボ・二次小説01]

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