ゲッターロボ-The beginning- 007(第2章)
2008-03-26


---第2章 異形の者---

 田宮美奈子は竜崎達也の下宿する古びた木造アパートの二階の部屋で、竜崎の帰りを一人待っていた。
 窓の外は夕焼けの色に染まり始めている。
 竜崎の部屋には美奈子には到底理解出来ないような、難しい学術書が所狭しと置かれ、本棚から溢れ出した本の山が畳の上に何段も平積みされていた。
 その雑然さを除けば、研究一筋である竜崎の性格をそのまま表したような、まるで今日の若者らしさの感じられない何ともシンプルな部屋である。
 美奈子は、昔と変わらないそんな竜崎を感じられたから、この部屋を好きになれた。
 何より彼の勉強机の上に、散乱するノートや筆記用具に埋もれながら、写真立てが顔を覗かせているのに気付いた時は、嬉しくて涙が出そうになった。
 飾られていた写真に写っているのは、二人の姿。
 椅子に座る美奈子の傍らに立つ学生服姿の竜崎の写真。
 それは、竜崎が田舎を出る際に二人で写真館に寄り、撮影してもらった物だ。
 その写真の中の竜崎は、優しく美奈子の傍で微笑んでいる。
 だから、美奈子はただ待ち続ける事になっても辛くはなかった。
 その畳の部屋で、美奈子は正座をしながら、竜崎の帰りを待っている。
 ここまで案内をしてもらった和子は先に帰した。
 大家に鍵を貸してもらえ竜崎の部屋に入れた事で、美奈子は一人で待てると思えたからだ。
 変わらぬ竜崎の姿が感じられるこの部屋の匂いに触れられたから。
 美奈子は竜崎を信じる事が出来た。
「皆さん、いい人達ですね」
 見知らぬ他人である美奈子を心配して、優しく接してくれる早乙女や和子。
 都会は怖い所だと思っていた美奈子にとって、あのような人達に囲まれている竜崎はきっと幸せな日々を送れているのだと、安心する。〓〓だから、
「私は、いつまででも達也さんを待ちますよ」
 机の上の写真に、そう語り掛けるのである。

 待ち続けると決めたとはいえ、女一人で初めて田舎を遠く離れた疲れもあったのだろう。
 美奈子はいつしかうたた寝をしてしまっていた。
 夕焼けの赤色が深まり始めた時、部屋の戸が乱暴な音を立てて突然開いた。
「……美奈子……か……?」
 その声に美奈子が驚き振り向くと、大男が部屋に倒れ込んだ。
「達也さん!」
 美奈子の目に飛び込んだ竜崎の姿は、まるで別人のようだった。
 美奈子の知る竜崎の姿より体格が二回りは大きく、身体中が厚い筋肉で覆われている。
 美奈子は慌てて竜崎の傍に駆け寄った。
 倒れ込んだ竜崎の衣服はボロボロで、その顔は土気色をしている。
 破れた衣服から覗く筋肉からは血管が浮き出ていて、小刻みに脈動していた。
 美奈子は、その場で気を失ってしまった達也を懸命に部屋の中に運び、布団に寝かし付ける。
 細腕の美奈子には、かなりの重労働である。
 うなされる竜崎の顔を見て、美奈子は心配になった。
 〓〓この人に、いったい何があったのだろう〓〓
 大柄でこそあったが、田舎に居た時の細身の竜崎しか美奈子は知らない。
 美奈子は湿らせた自分のハンカチで竜崎の額に浮き出る汗を拭いながら、自分の知らない竜崎がそこに居る事を、少し悲しく思えた。
「いけない、お医者さんを呼ばないと……」
 気が動転して、そんな事にも気付かない自分を恥ながら美奈子が立ち上がろうとした時、竜崎の意識が戻った。
「……美奈子」
「達也さん! 気が付いたのね?
 待っててください、今、お医者さんを呼んで来ますから!」
 大家に電話を借りようと立ち上がる美奈子の手を掴み、竜崎が引き止める。
「……医者はいい……医者はいいんだ」
「でも……」
 真剣で、それでいて悲しそうな彼の瞳を見て、美奈子は竜崎の枕元に座った。
「……美奈子……どうして来た……」
「だって、心配だったから」
「帰れ……」

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[ゲッターロボ・二次小説01]

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