2008-03-23
早乙女の言葉に、竜崎の頬がまたピクリと動く。
早乙女は竜崎をなだめるように、喋りながら一歩ずつ近づいて行く。
「お前が居てくれないと困るんだよ、研究だってなかなか進まないしさ。
ほら、こないだの実験。あれをさ、竜崎に検証してもらいたいんだよな。
だからさ、一緒に帰ろうよ。みんな、待ってるからさ」
早乙女は不要な刺激をしないよう言葉に気を付けながら、とにかくこの場から竜崎を連れ出そうとした。
こんな騒然とした場所に居てはダメだ。
説得出来るものも説得出来なくなる。
何で竜崎がこんな事になってるのかは、その後に聞けばいい。
しかし、友を思うそんな早乙女の気持ちが、当の竜崎に届く事は無かった。
竜崎の肩が小刻みに震え出した。
「……お…れは……」
「竜崎?」
「……俺は……俺は…………俺だぁああああああ!!!」
突然雄叫びを上げた竜崎は、掲げていたグラサンの男をまるで野球のボールか何かを投げるかのように、早乙女に向かって投げつけた。
尋常では無い怪力!
常軌を外れた行動に不意を突かれた早乙女には、飛んでくるグラサン男の身体を避ける事が出来ない!
あわててリッキーが早乙女を押し退ける。
腰を溜めてグラサン男の身体をキャッチした。
リッキーの力もそれはそれで尋常では無い。
「アンタぁ! 何すんのよ!
人間は投げていいモノじゃないのよ!!」
文句を言うリッキーの目の前に、竜崎の身体が飛び込んでいた。
5メートル程はあったハズの距離を、竜崎は一瞬の内に詰めていたのだ。
「うウぅぅおォ……
俺に命令……するなぁぁぁあああああ!!!」
叫ぶと同時に岩のようなその拳をリッキーの顔面に叩き付ける!
グラサン男を抱えてしまっているリッキーは両手が使えず、そのまま顔面を殴られ吹き飛んでしまう。
「リッキー!!」
自分を庇ったために倒されてしまったリッキーを見て、早乙女がキれた。
「竜崎ィ! てンめぇー! 自分が何やってンのか解ってンのか!?」
竜崎を連れ戻しに来た事など、瞬間頭から飛んでしまった早乙女が竜崎に殴りかかる!
が、鋼のような竜崎の腹筋はびくともしない。
「……俺に……触るなァァあああ!!」
払い除けるように振り回す竜崎の腕が、早乙女を薙ぎ倒す。
壊れたパチンコ台に叩き付けられる早乙女。
背中をしたたかに打ち付けた。
一瞬息が出来ない。
早乙女は床に転がってた角材を拾い、立ち上がりざまに竜崎の頭を殴り付ける。
「竜崎ィ! てめー! いいかげんにしやがれ!!
みんなてめーの事、心配してんだって言ってるだろ!!
美奈子さんだっててめーを心配して、わざわざ田舎から探しに来てくれてンだぞ!」
早乙女の言葉に、竜崎の動きが止まった。
「……美奈…子?」
「そうだ、田宮美奈子さんだよ。てめーの恋人なんだろ?
あんな美人に心配掛けやがって! てめー、何様のつもりだ!!」
最後の方は早乙女の本音が混じっているような気もしないではないが、美奈子の名を聞いた竜崎の瞳に、意志の光りが射したように見えた。
「……美奈子……」
動きの止まった竜崎を見て、早乙女は角材を手放した。
「そうだ。
今、和子さんがお前の下宿に案内してるよ。
だからさ、オレ達と一緒に帰ろうぜ。な?」
手を差し伸べる早乙女。
あれだけ無表情だった竜崎の顔が、苦悩するような、悲しそうな、複雑な表情を見せた。
が、次の瞬間、
「うわぁぁァあァアああああ!!!!!」
大声を上げ、竜崎は暴れながら店の外に飛び出してしまった。
野次馬の人だかりが、飛び出る竜崎を避けるため、モーゼを前にした海のように割れて道を成す。
「竜崎ぃ!!」
早乙女は咄嗟に追い掛けようとするものの、瓦礫と化している店内の足場の悪さが邪魔をした。
セ記事を書く
セコメントをする